SSブログ

あなたはあなたのままでいいのに [美術]

絵画教室が終了後、生徒さんから悩みを打ち明けられた。
それは予想もつかない種類の相談であった。
そんなことで悩むのかと意外な感を抱いた。
と同時にかつて、自分もそういう時代を通ったかもしれない、
とも思った。

生徒さんはボク自身の絵画サイトの水彩画や鉛筆画を毎日眺めては、
どうしても同じような絵にならないし、同じように描けないというのだ。
つまりボクのように描くことが、上達と信じきっているのだ!

ひとは人のまねをする必要はない。
むしろまねすべきではない。
(しかし模写は勉強になる)
そして、幸か不幸かまねをしても、
同じにはならないのだ。

絵画の基本的な部分を学んだら、あとは個性を発揮して
どんどん描くべきであると考えている。
いや、個性を発揮しようと思わなくていい。
自分の感性を信じて、自分にとっていい絵だと
思える地点に突き進むのがいいと思う。
その真剣な努力の道筋で、その人なりの魅力が立ち昇るものだ。
その人しか描けない世界がほのかに見えてくる。

自分もかつて迷いの頃があった。
それは、自分に似ている作家を探したのだ。
しかし自分の個性に似ている作家などいないことがよくわかった。
自分の描こうとする世界が、すでに誰かによって
成し遂げられているとするなら、自分が描く意味がなくなる。
そして誰とも似ていないということが
自分の強みなのだとわかった。
兄弟探しは、自分の美への自信のなさの現われなのだ。

それからは、自分の感性を道しるべとして、
心地よいもの、好ましいものを探る方法論を辿った。
どう転んでも自分はこの道になるというものが見えてくる。
それが自分のモチーフとなるだろう。

おそらくルノアールも、伊藤若冲も、
エゴンシーレも、自分の個性をどうこうしようとは
考えなかったにちがいない。
ただ自分が美しいと思えるものに突き進んだ。
その到達点の高さにひとは感嘆し、
新たな個性の出現を称えるのだ。

(2015-10-21 SNS日記より)

にほんブログ村 哲学・思想ブログへ
にほんブログ村

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 仏教へ
にほんブログ村

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

アナタにとって美とは? [美術]

今回は、技法的なことがらをはなれて、
絵を描くさいの、根本的なところについて、記してみたいと思います。
これまでの経験を交えて・・・

自分は、小さい頃から絵の好きな子だったようです。
父母が亡くなってから、実家の整理をしたときに、
自分の子供時代に描いた絵などがたくさん出てきました。
どうも母が捨てずに保管してくれていたようで、
それらを見ることができました。

不思議な感覚でした。
描いた当時の感触がまだあるのです。
古いものでは、60年の歳月を経ていますが、
当時どんな思いで描いたかをおぼろげながら思い出すのです。

海の中を描いた絵では、魚の頭がこちらの正面を向いているけれど、
尻尾のほうは泳いでいるのでしならせていて、
横に見える尻尾を、苦労して描いたなという感覚です。
また海中の水を青色で塗っていますが、隙間ができないように
丹念に塗った自分の記憶があるのです。

絵というものは、たんに絵の具を使って描く行為ではなく、
なにか、こころの動きや感動を塗り込める行為なのだと
あらためて確認した瞬間です。



大学へ進学するときに、これからの自分の進路を
決めなければいけない場面がやってきます。
当然というか、絵の道を考えました。
しかし親の反対もあって、技術系の道に決めました。
絵の道なんか、食えるわけがないというのが
親の反対理由でした。

ほんとうにそちらへ進みたいのならば、
親の反対なんか突破し突き進むことも可能でした。
それをしなかった理由を、鮮明に覚えています。

自分の「美」がわからなかった。
ということに尽きます。

技法的なことや、絵の具の使い方は、
勉強すれば身につきます。
それらの絵の知識は、専門の学校に進めば
飛躍的に広がる機会が与えられるでしょう。

しかしです。
自分は何を描きたいの?
これがわからなくては、
絵を描いていくことはできません。
どんなに絵が上手くても、
テーマのない画家というものが考えられない、ということです。
行く先がないのにとにかく進めといわれているようなものです。

もちろん職業画家というものはあります。
クライアントの依頼の応じて絵を制作する道です。
これは完全に仕事として技能を売る道ですが、
しかし売る絵を描いているときも、
絵に愛情なくしては描けないのではないか
という感覚があります。

「芸術家」として自分のあり方を見たときに、
自分は何を表現したいのだ?
というところがグラグラしていては、
美大において、描きたいテーマを持った才能溢れる美学生に
伍していくことはとうてい無理だと思いました。

自分がほんとうに美しいと思うものは何だろうか?
描きたいものは何だろうか?
この疑問はずっと何十年も続きます。
不思議な縁で、仕事の都合で赴任した先の、
信州の緑の風景に触れたときに、この問いは一気に解決しました。
この輝く緑の風景を描きたいんだ、
という内面の動機がハッキリ見えたのです。



絵を描くということは、紙に向かってなんらかの図形を描く、
ということですが、こころの世界から見れば、
画家の信じる美を表現していることでもあります。
絵の裏側には、画家の感動があり美への思いがあります。

この感動がなく、美を失ったときに、
絵を描くことがマンネリに陥っていきます。
あるいは描いていてイヤになります。
苦痛にすらなります。

趣味で絵を描くなら、なおさら、この美は大切なことです。
海外ではプロの画家とアマチュア画家を区別する意識はあまりなく、
フルタイムペインター(しょっちゅう絵を描いている人)と、
パートタイムペインター(休日に絵を描く人)と分けているようです。
絵を描く時間の長短のちがいだけとみているようです。
したがって、趣味で描いているといえども、
専門の画家とはちがうアマチュアなのだとは考えません。
みな画家あつかいなんですね。

なので、この問いは、いつも重要です。
アナタにとって、美とはなんでしょうか。



添付の画像は、20年位前に描いたものです。
自分のテーマが決まり、本格的に取り組もうと思った頃のスケッチです。
奥多摩にある川合玉堂美術館の付近の渓流の景色です。
ペンに水彩で描いています。

500x500-49152okutama.jpg


(2015-05-27 SNS日記より)

にほんブログ村 哲学・思想ブログへ
にほんブログ村

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 仏教へ
にほんブログ村

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

ルノアールの言葉に [美術]

詩誌でお世話になっている世話人のA氏から、手紙が届きました。
先に開催された詩誌の作品合評会の様子が、したためられていました。
埼玉県で開催されるため、自分は会合にはほとんど出席していません。

詩作品として『描く』というものを出しましたが、活字になった詩誌が届くなり、
パラと見たきり、閉じたままでした。
なんだか書くべきでないものを書いた気がして恥ずかしくて、
この作品のことは忘れようと思っていました。

しかしA氏の言葉によると、自分の思いとは裏腹に、
「試作品『描く』は、いいと思う、気に入ったという人がかなりいました。
ことに女性の方に気に入ったという方が多数ありました。」
とありました。つまり評判がよかったらしいこと、
女性会員の声が多かったいうことらしい。

このギャップには正直驚きました。

詩の内容のなんたるかを、言わなければいけませんね。
むかいあう女性の姿を描いている絵描きの心のうつろいを
詩にしました。
うつろいという言葉は主観的な言い方ですが、
もっと分かりやすく言えば、むかいあう女性の姿に
肉薄しすべてを掬い取ろうとする画家のこころを書いたということです。
そして内面を描写するということは、
いつも恥ずかしさと、とんでもないことをした感覚に
見舞われるものです。

A氏の言葉は続きます。
「描くという作品行為を通じて、作者○○さん(私)の恋愛の感情を
受け取るからなのでしょう。」
この言葉にも、ちょっと驚きを隠せませんでした。
恋愛の感情を書いたつもりはないのだが・・・

しかし、ふと自分が絵を描く際に念じていることを思い起こしました。
それは、ルノアールの言葉に集約されています。
自分の気持ちは、このルノアールの言葉に
言い尽くされているといってもいいものです。
その言葉は、次のようなものです。

 「絵というものはぼくにとって、愛すべきもの、
  愉しくて美しいものでなければならないんだよ。
  そう、美しいものだ!
  人生には厭なことが多すぎるんでね、
  これ以上厭なものなんかこしらえたくないんだよ。

        『ルノワールの生涯』より
        (アンリ・ペリュシュ 著/講談社)」

そう、対象を愛さなければいい絵は描けないものだ、
とつねづね信じているのです。
そもそも対象をつぶさに見つめることは、
脳が対象を愛していることなのだ、
という脳科学者の言葉もあります。

書いたつもりはなくても、詩の言葉に
対象への思いがにじんでいて、
読者に伝わったということなのかもしれない。
そもそもそれを書きたかったのではないのか、
といま自問しています。

(2015-05-05 SNS日記より)

にほんブログ村 哲学・思想ブログへ
にほんブログ村

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 仏教へ
にほんブログ村

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。