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おおいなる誤解 (自分のためのメモ) [仏教]

仏教が正しく理解されていない理由のひとつとして、
自己の存在に対する誤解があると思う。

近年の個人主義の高まりによって、個人が大切であり、
思う存分、個性を発揮することに価値があって、
それを妨げないように社会や国の仕組みも
構築されるべきであるということになっている。

いわば個人という存在は、すべての価値観に先立って
尊重されるべき存在、アプリオリに価値を持つ存在という
ふうに祭り上げられている。
しかし、その論旨を裏付けるものは無く、
ただ無条件に個人は尊いということになっている。

このような考え方は、釈尊が説いた仏教の基本とは、
まったく相容れない考え方といわざるを得ない。
したがって、いま仏教が正しく理解されていないと思うし、
社会において力を失っている状況だ。

そもそもこの個人至上主義の思想を、
あらためて考えてみると、見逃している不思議な
ことがらがある。

『なぜ個人が尊いのですか?
この怠けやすく怠惰で、できるだけ楽しようとしている
この個人のどこに尊さがあるのですか?
誘拐犯罪や、薬物による犯罪、税逃れのさまざまな
悪智慧、家庭では虐待やネグレクト、DVなど
こんなことをする個人のどこに尊厳と価値と
尊さがあるのですか?
その根拠はなにですか?
(自分自身を含めて)いい加減でずるがしこい、
こんな人間の、どこに尊さが潜んでいるのですか?』

これらに対するつよい答えは聞いたことがない。
それもそのはずで、その根拠などないから。

仏陀は、自己には実体がないということを説いた。
自己はあるように見えて、はっきりした実体がなく、
さまざまな縁によりたまたま現在がありえているもの
であると。

犯罪を犯す縁に見舞われれば、恐ろしい犯罪に手を染める。
自分はそんなことはしないはずだと思っていても、
事故を起こしてしまう。
社会の規範を守っている立派な人間だと思っていても、
人を傷つける。

自分に善人の因子があるので、立場を保ちえていると
思っていても、それはさまざまな偶然や支えや運などに
よってかろうじて今があり得ている。
それを自分の努力とか自分の成果とか、
己を誇るようなことがらに帰している。

それはある意味、滑稽な話で、お笑いでもある。
その見方は甘いと言わざるをえない。
頭はいろいろと自分に都合のよいことを考え出すものである。
妄想を膨らませるものである。

そんな尊い存在の自己が、いよいよ死ぬとなったときに、
どのようにその事態を受け入れるのだろうか。
尊いのならば、ほんらい死ぬのはおかしく(死ぬはずもなく)、
なぜ自分が消滅しなければならないのかと
苦悶するするのではないだろうか。
あるいは、その日まで考えても仕方ない、
考えないようにしようと目隠しするのだろうか。

仏陀は明確に宣言した。
自分は生死を越えた、不死の法を得たと。
不老長寿になる方法を見出したという意味ではない。
生病老死のわずらいの苦しみの生まれ来る根本を悟り、
それらと無縁となったと宣言したということである。

縁によって成り立つ自己は、縁が崩壊すれば消滅する。
自分の存在において、なにかしっかりとした実体が
あるのでなく、それは条件しだいで生まれたり
滅したりする。そんな明滅する存在のあり方が
自己の存在の本質であったということである。
自己の存在が永続すべきであるという「べき論」もなく、
ただは波間に揺られている小舟のような頼りない存在。
そのことを見通したということである。



ふと思いだすのは、宮沢賢治の詩集『春と修羅』の序にある冒頭の言葉だ。
仏教の縁起の世界を、みごとな詩的表現によって表していて、
いちど聞くと忘れがたい。



春と修羅
                  宮沢賢治



わたくしといふ現象は
假定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといっしょに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの青い照明です
(ひかりはたもち、その電燈は失はれ)

これらは二十二箇月の
過去とかんずる方角から
紙と鑛質インクをつらね
(すべてわたくしと明滅し
 みんなが同時に感ずるもの)
ここまでたもちつゞけられた
かげとひかりのひとくさりづつ
そのとほりの心象スケッチです

(後略)


(2016-05-12 SNS日記より)

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